養育費不払いの「強制執行」教室

養育費についての公正証書や調停調書があっても、相手が支払を拒否する場合には「強制執行」を行う必要があります。

「強制執行」とは、相手の銀行口座や給料から強制的にお金を取り立てる手続きです。「強制執行」を行うには、申立書や証拠書類などを用意しなくてはなりません。

今回は、強制執行を自分で行うための方法をわかりやすく解説します。

強制執行をするための前提条件は?

強制執行は、相手の財産を強制的に取り上げることができる強力なものです。そのため、強制執行をするためには、公正証書や調停調書、少額訴訟で得た判決正本などの作成が前提となります。

公正証書や調停調書には「執行力」という効力があり、養育費などの支払約束が破られたときには、強制執行をすることができます。

養育費などのお金の支払を約束する書類としては、公正証書や調停調書以外にも、合意書や念書、借用書などもあります。しかし、これらの書類には「執行力」は認められません。裁判所や公証人の関与なく作られた書類に強力な効果を認めることはできないからです。

強制執行を検討する際には、公正証書や調停調書など執行力のある書類を持っていることが前提条件となります。

これらの書類がない場合には、こちらの記事をご覧ください。
「養育費不払い対策」教室

強制執行の対象は?

強制執行をするときには、相手のどの財産を差し押さえるのかを自分で決めなくてはなりません。裁判所に「〇〇さんの財産を差し押さえてください。」と言っても、裁判所が相手の財産を探してくれるわけではないのです。

強制執行の対象となる財産は、基本的に預金か給料の2つです。不動産や車なども強制執行の対象とはなりますが、養育費の不払いを理由とした強制執行で、これらの財産が対象となるケースはほとんどないでしょう。

預金の強制執行

預金の強制執行を行うには、〇〇銀行の〇〇支店と指定することが必要です。〇〇さんの銀行口座というだけでは差し押さえはできません。

現在の制度では、相手の銀行口座がわからない状況では預金の差し押さえは難しいです。

※財産開示手続の制度は、弁護士への依頼なしに利用するのは難しく、弁護士に依頼して利用したとしても、実際に預金を差し押さえるのは難しい制度となっています。

相手の銀行口座がわからないのであれば、自分で預金の強制執行を行うのはおすすめできません。夫婦のときに使っていた銀行口座を覚えている場合や、銀行振込で養育費を支払ってもらったことがある場合に預金の差し押さえを検討してみるようにしましょう。

給料の強制執行

給料の強制執行を行うには、相手の勤務先を特定する必要があります。相手の勤務先がわからなければ給料の差し押さえはできません。

相手の勤務先がわかれば、給料が相手に支払われる前に差し押さえて、養育費などを回収できます。給料の差し押さえで、回収できるのは手取り額の4分の1が上限です。手取り20万円の場合には、5万円のみ回収できます。4分の1の額で全額回収できない場合には、毎月の給料から回収し続けることになります。

強制執行の申立てはどこにすれば良いの?

強制執行の申立ては、次のいずれかの地方裁判所に対して行います。

● 債務者の住所地を管轄する地方裁判所
● 差し押さえたい債権の所在地を管轄する地方裁判所

債務者とは、養育費などのお金を取り立てる相手のことです。相手が大阪市内に住んでいる場合には、大阪地方裁判所に申立てを行います。

差し押さえたい債権とは、預金や給料のことです。相手が神戸市内で勤務している場合には、給料の強制執行を神戸地方裁判所に申立てることもできます。

例に挙げたケースでは、大阪地方裁判所と神戸地方裁判所のうち、いずれか都合の良い方を選べます。

相手の住所地や銀行の場所、勤務地が遠方の場合には、遠方の裁判所で申立てを行わなければなりません。ただし、強制執行の申立ては、基本的に郵送と電話のやり取りだけで行えまるため、遠方の裁判所まで出向く必要はないのでご安心ください。

強制執行の必要書類

預金や給料の強制執行を行う際の必要書類は次のとおりです。

● 債務名義正本
公正証書や調停調書のことを債務名義と言います。債務名義正本とは、公正証書や調停調書の正本のことです。

● 執行文
● 送達証明書
執行文や送達証明書については、公正証書や調停調書と同時に受け取っているケースがほとんどです。
公正証書の場合には、公正証書の最後のページに執行文が添付されています。公正証書に執行分が添付されていない場合には、公正証書を作成した公証人役場での手続きが必要になるので、公証役場に問い合わせてみてください。

● 住民票・戸籍謄本
債務名義に記載された名前や住所が現在のものと異なる場合には、住民票や戸籍謄本の添付が必要です。

● 資格証明書
資格証明書とは、商業登記簿謄本のことです。預金の差し押さえを行う場合には銀行の、給料の差し押さえを行う場合には勤務先の登記が必要になります。
登記は全国の法務局で取得できます。

● 債権差押命令申立書・各種目録
詳しい書き方については、次の項目で解説します。
強制執行の申立書の書き方
強制執行の申立書は、次の4つがセットとなっています。

● 債権差押命令申立書
● 当事者目録
● 請求債権目録
● 差押債権目録

それぞれの書き方を詳しく見ていきましょう。

債権差押命令申立書

申立書の債権者とは、強制執行の申立てをする人のこと、債務者とは強制執行される人のことです。

・(東京地方裁判所民事第21部→〇〇地方裁判所民事部)
裁判所の欄には、申立てをする裁判所の名称を記載してください。
どこに申立てをするかは、「強制執行の申立てはどこにすれば良いの?」で解説しています。

・債権者の欄には、あなたの名前と電話番号を記載してください。
FAXがない場合には、記載を省略しても大丈夫です。

・第三債務者に対し、陳述催告の申立てをする。の欄にチェックを入れてください。
第三債務者とは、差し押さえの対象となる債権の債務者のことです。預金の場合には、銀行が、給料の場合には勤務先が第三債務者になります。
陳述催告とは、第三債務者が、預金や給料がいくらあるかを回答する制度です。差押えの結果がわかるように、陳述催告は必ず行うようにしましょう。

・添付書類
添付する書類に応じた部数を記載してください。
戸籍謄本、住民票については、債務名義に記載された情報から変更のない場合には必要ありません。

当事者目録

債権者 あなた

債務者 相手

第三債務者 銀行or勤務先

それぞれの住所、名称を記載してください。
住所は、債務名義や資格証明書に記載されたものを記載してください。債務名義から変更のある場合には住民票や戸籍謄本の提出が必要となります。

請求債権目録

債務名義が公正証書の場合には、こちらのテンプレート

子ども1人
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20191224_suk_sei2-07b_49.pdf

子ども複数
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20191224_suk_sei2-15b_42.pdf

所属公証人 作成令和 年第 号
公正証書の原本に記載された番号を記載してください。

確定期限が到来している債権とは、申立ての時点で未払いになっている養育費の額のことです。令和5年2月に申立てをする場合、令和5年1月までの未払合計額となります。

「ただし~」の内訳部分については、子どもの名前、月額の養育費、いつからいつまで未払いになっているかを記載してください。

執行費用の項目について、テンプレートに記載済みの項目以外が不明の場合には記載を省略しても大丈夫です。金額がわかる場合には、その金額を記載してください。

確定期限が到来していない債権とは、申立ての日より先の養育費のことです。養育費が支払い終るまでの期間の差押えが可能です。ただし、先払いを受けることはできませんので、記載が難しいようでしたら省略しても大丈夫です。

債務名義が判決・調停の場合には、こちらのテンプレート

子ども1人
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20191224_suk_sei2-03b_50.pdf

子ども複数
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20191224_suk_sei2-11b_52.pdf

家庭裁判所(□ 支部)令和 年( )第 号事件
調停調書の原本に記載された番号を記載してください。

差押債権目録

給料
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20191010_suk_sa2-03_67.pdf

給料の差押え 基本的には1ページ目を採用
請求債権目録の記載を流用 
※自動入力の場合、差押債権目録では新たに記載する項目はない

預金
https://www.courts.go.jp/akita/vc-files/akita/file/20310022.pdf

預金についても、金〇〇円~請求債権目録記載の合計額
第三債務者の記載

いずれも、自動入力では新たに記載する項目はない